耳のスキマ時間や耳活といった言葉をご存知だろうか。
自分はつい最近まで知らなかったが、この記事で紹介するVoicyというアプリで音声配信を聞いたことがきっかけで知った。
音声配信は全般的にYouTubeなどに比べて手軽感があり、ひょっとしてこれから面白くなるのではないかと思い、今回調べてみた。ただ調べてみると、遅くはないけれどすでに各アプリ数百万人のアクティブユーザーがいたり、そのアプリで生活をしている配信者がいたりと、結構成長している。
そんな現状も含めて、今回音声アプリについて調べみた。
カテゴリー
そもそも音声アプリとは何だろうか。音声アプリは音声コンテンツを提供するアプリのことであり、提供するコンテンツや方法によって、以下の5つのカテゴリーに分けられている。
1、インターネットラジオ
2、ポッドキャスト
3、音声配信サービス
4、音声SNS
5、オーディオブック
1、インターネットラジオ
インターネットラジオは、インターネットを通して配信されるラジオである。通常のラジオは電波を通して放送されているが、インターネットラジオはインターネットを通すことで、パソコンやスマホ、タブレットなどのデバイスでもラジオが聴くことができる。
主なアプリにradikoがあり、定番のFM/AMラジオやTBSのラジオ番組などをリアルタイムで視聴できる。
2、ポッドキャスト
ポッドキャストは、インターネットを通してコンテンツの音声ファイルを配信する仕組みである。元々は動画も含めてポッドキャストと呼ばれていたが、最近はポッドキャスト=音声配信として使われている。
主なアプリにApple Podcast、Spotify、Anchorがある。
3、音声配信サービス
音声配信サービスは、音声配信プラットフォーム内で音声コンテンツを作成・配信できるサービスである。収録・ライブどちらの配信も可能。また、ユーザーからのコメントやギフトを受け取ることができるので、配信者とユーザーで双方向のコミュニケーションも可能。
主なアプリにVoicy、stand.fm、RadioTalk、SPOONがある。
4、音声SNS
音声SNSは、ユーザー同士が「音声」を通して交流できるSNSサービスである。インスタグラムは画像・動画、ツイッターは文字を通して交流するが、その音声版だ。他の音声メディアだと発信者とユーザーのように立場が完全に分けられているが、音声SNSだとユーザーがずっと聴いているだけでなく、発信者と話したり、その場に参加している人全員に何かを共有したりするので、より双方向性が高い。
主なアプリにTwitter内のスペース機能やClubhouseがある。
5、オーディオブック
オーディオブックは聴く本のことで、文字通り本を読むのではなく音声で聴くサービスである。アプリやデバイスなどでオンラインでも、本をダウンロードしてオフラインでも利用可能。
主なアプリにaudiobook.jpとAudibleがある。
市場規模
音声アプリは現在成長中の市場であり、これには3つの要因がある。
1、「ながら聴き」できる
2、デバイスの進化と普及
3、制作コストが安い
1、「ながら聴き」できる
YouTubeやInstagram、Twitterは目、すなわち視覚を使った情報取得・情報消費で、他の作業と同時並行で行うことにはあまり向いていない。歩きスマホが以前問題になったように、歩きながらYouTubeを見ることはあまりよろしくないし、仕事中にInstagramを見ながら作業するのは仕事の生産性が落ちるだろう。せいぜい電車やバスの移動中に見ることができるくらいだ。
一方で耳、すなわち聴覚を使った情報取得・情報消費を行う音声アプリは、他の作業と同時に行うことができる。分かりやすいのは多くの人がしていた音楽を聴きながらの試験勉強だ。あれは目で教科書や参考書を読みながら、耳では音楽を聴いていた。これはすなわち情報受信元の棲み分けである。
これを音声アプリに置き換えると、仕事でパソコンで作業をしながら、音声アプリで音楽や音声コンテンツを聴く。ちゃんと情報受信元が目と耳に分かれているから、仕事をしながらの「ながら聴き」ができる。
そして、この「ながら聴き」ができることが、いくつものことを同時並行で行いたい現代人の需要と合致して、多くの人がそれに気づいて音声アプリを使った耳活もし始めているのだ。
2、デバイスの進化と普及
ここ数年でスマートスピーカーやワイヤレスイヤホンが普及し、いつでもどこでも何かを「聴く」ことへのハードルが劇的に下がり、可能になった。これはスマホやタブレットが普及して、いつでもどこでも何かを「視る」ことができるようになったことと同じだ。
この変化によって、これまでスイッチ・リモコンなどを使った物理的操作から、声がけ一つあるいはタップ一つで音声を扱えるようなり、圧倒的に使いやすくなった。
また、ワイヤレスイヤホンは「ながら」作業でもコードが邪魔にならなかったり、ノイズキャンセリング機能により音声への没入感が増したりなどしたことも、音声の使いやすさ、楽しみやすさを増してくれている。
3、制作コストが安い
これは上の1と2のユーザーメリットではなく、コンテンツ提供側や配信者側のメリットで、制作コストが安い。音声コンテンツはスマホさえあれば、誰でも情報・コンテンツを配信することができる。その上動画に比べて編集作業も少なく、お金・時間・人・機材などの制作コスト全般を安く抑えることができる。
これら3つが音声アプリが伸びている要因である。
ここからは具体的にデータもいくつか見ていきたい。
音声の広告市場は2025年までに420億円まで拡大見込み(デジタルインファクト調べ)
主要アプリ
音声アプリは各カテゴリーにおいて主要アプリがあり、それぞれがここ数年で成長してきた。ここでは主要アプリを紹介する。
1、インターネットラジオ
radiko
日本最大級のラジオ配信サービスで、日本の民放ラジオ局99局のラジオ番組が聞ける。月間平均利用者数が約900万人(2022年8月発表時)。ライブ配信だけでなく、聴き逃した番組も後から聴くことができる。月額385円のラジコプレミアムの会員は、日本全国の番組も聴き放題で聴くことができたり、過去1年の配信を聴くことができ、幅広い世代に人気が出て2022年8月には100万人に到達した。
月間ユニークユーザー数約900万人、スマートフォンやパソコン等でラジオを聴ける「radiko」日本全国のラジオ局が聴き放題のサービス『ラジコプレミアム(エリアフリー聴取)』の会員数が100万人に到達!
全国の放送局の差し替え可能な広告枠を使って、ターゲティングされた音声広告をユーザーに配信している。これは広告の特定枠を買う純広告と違い、再生課金型の広告である。
2、ポッドキャスト
Apple Podcast
Apple PodcastはAppleによるインターネットラジオで、音声配信以外に動画配信にも対応している。コンテンツは幅広いジャンルが取り扱われている。音声コンテンツをダウンロードすることでオフラインでも再生可能。購読ボタンをタップすると特定の番組がライブラリに登録され、新しいエピソードが自動で更新される便利な機能もある。
Spotify
Spotifyは世界最大級の音楽ストリーミングサービスで、ユーザー数は世界に2億人以上、日本では月間アクティブユーザー=MAUが960万人(2021年9月時点)いる。無料プランでも使える機能が多いため、半数以上が無料プランのユーザー。ポッドキャストでは多様なコンテンツが配信されている。
Anchor
Anchorはポッドキャストアプリで、一度に9つのプラットフォームに配信でき、ポッドキャスターからも支持を集めている。通常Podcastではサーバーを用意する、ボイスレコーダーで収録するなどいくつかの工程が必要だが、Anchorであれば収録・編集・配信がタップのみ、効果音をつけたり不要な部分を削ったりすることもできる。
Podcastの先駆けであるアメリカでは、Anchorで収益をあげている配信者もいる。配信コンテンツをダウンロードすれば stand.fmやnoteなど独立配信系にも配信できるので、複数のプラットフォームに配信したい人にはオススメ。
3、音声配信サービス
Voicy
Voicyは様々なジャンルの音声コンテンツを配信するプラットフォームである。誰でも配信できるわけではなく、運営側から声をかけてもらうか、チャンネル開設を申し込み審査に通る必要がある。ちなみにVoicyは審査の通過率を5%と言っている。そのため、配信者=パーソナリティ(Voicyでは配信者をパーソナリティと呼ぶ)は著名人やインフルエンサーなど厳選された人たちばかりだ。
バックグラウンド再生や倍速再生などの機能が充実しており、リスナーは自分に合わせた調整ができる。また、5分~20分程度の番組が多いので、すきま時間の視聴にも向いているのと、過去の配信もバックナンバーとして残っているので再度聴くことができるのが特徴である。
質の高い配信者とユーザー目線に合わせた色々な機能によって、Voicyは成長を続けており直近の2022年11月には登録会員数が165万人を超えた。なお月間アクティブユーザー数=MAUは2020年末に100万人、2021年4月に250万人だった。
(2022年11月時点)
(2022年7月時点)
stand.fm
stand.fmは音声配信アプリで、アプリ内でしか配信できないが、その代わりにはじめての配信でも他の人に聴いてもらいやすかったり、いいね、コメント、LIVE配信などリスナーと交流しやすい機能や別の配信者をゲストとして呼ぶことで簡単にコラボ配信ができる機能もある。
stand.fm で収益を得る仕組みは3つ。
1、再生回数に応じて発生
2、月額有料チャンネルとして配信
3、コンテンツとして販売
他にもYouTubeのように広告で収益を得る仕組みを徐々に整えている。なお1〜2年前という古いデータにはなるが、月間アクティブユーザー数=MAUは100万人を超えており、Voicyと同様現在はさらに成長しているはずである。
RadioTalk
Radiotalkは個人ラジオの配信サービスで、誰でも自由にライブ配信やコンテンツ配信ができる。録音から配信まで簡単なボタン操作で利用できるのと、収録時間は最大12分間で数分程度でも配信可能で、音声配信サービスの中でもトップクラスの手軽さが特徴の一つ。また、リモートでゲストを招待するだけで複数人で配信できるので、気軽に通話感覚でコラボ配信ができる。ただし、Radiotalkでは芸能人や有名人もコンテンツを配信しているため、個人のコンテンツが聴かれるためには工夫が必要になりそう。
「さしいれ」という投げ銭機能があり、配信者はその数や配信頻度などの貢献度に応じて「ポイント」を得て、それを現金やLINE Pay、Amazonギフト券などと交換できる。さらに、Apple Podcast、Amazon Music、Spotifyなどの配信プラットフォームへの自動配信も可能。
RadioTalkはユーザー数などの情報は見つからなかったものの、2021年は他の音声アプリ同様に成長したらしく、配信者の獲得収益が前年比12倍になり、中には会社を退職して音声配信だけで生活を営む「専業トーカー」も複数名誕生したようである。おそらく2022年はさらに成長したであろうことから、今後の情報公開を待ちたい。
(画像は共に2021年データ)
SPOON
Spoonは個人ラジオの配信サービスで、誰でも手軽に配信者=DJ(SPOONでは配信者をDJと呼ぶ)になり、リスナーと交流できる。機能は生配信コンテンツ「LIVE」、録音コンテンツ「CAST」、声でやり取りする掲示板のようなコンテンツ「トーク」の3種類。DJはリスナーから課金アイテム「スプーン」を受け取ることで収入を得たり、Spoonへの「貢献度」によって運営側からポイントが贈られたりする。ポイントの具体的な算定方法は非公開だが、配信の頻度やリスナーからプレゼントされたスプーンの数などによって、変化するらしい。配信コンテンツはDJとの雑談や弾き語りなど、どちらかというと個人的なコンテンツがメインになっている。
4、音声SNS
Clubhouse
Clubhouse(クラブハウス)は、音声版ツイッターのような音声チャットアプリ。プラットフォーム上に作成したチャットルームに自由に出入りしながら、世界中の人たちとリアルタイムで音声のやりとりが可能で、気軽に発信や参加ができるコミュニケーションツールである。2020年に新しい音声配信ツールとしてリリースされ、すぐに人気になった。当初はすでに利用しているユーザーから招待されなければアプリが使えなかったのも人気になった一つの要因だった。しかし、リリース直後からの人気は長くは続かず、さらにTwitterがアプリ内に同様の機能を持つ「スペース」をリリースしたことでポジションを取られ、今では完全にオワコンである。
Twitterスペース
Twitter内にある音声版Twitterのような機能で、Twitter上で音声を使ったリアルタイムの会話ができる。作成したチャットルームに自由に出入りしながら、世界中の人たちとリアルタイムで音声のやりとりが可能で、気軽に発信や参加ができるコミュニケーション機能である。元々はClubhouseが先行してアプリを提供していたが、後からTwitterが参入して元々のユーザー基盤を活かしてClubshouseを駆逐し、現在はスペースがこの領域を独占している。
5、オーディオブック
audiobook.jp
audiobook.jpは、オトバンクが運営する日本最大級のオーディオブックサービスである。プロのナレーターや声優を起用しており、「耳で聴く本」のサービスを提供している。作品数は1万5千以上。
基本的には有料で、本を購入するためのポイントを毎月もらえる「月額プラン」、聴き放題対象商品になっている本が聴き放題の「聴き放題プラン」、チケット1枚を対象作品1冊と交換可能かつ本を購入するためのポイントを毎月もらえる「チケットプラン」の3種類がある。どれも月額課金制で、月額プランは税込550〜33,000円で複数、聴き放題プランは月額1,000円または年間契約割引の月額750円で2種類、チケットプランはチケット1枚で月額1,500円とチケット2枚で月額2,900円の2種類をそれぞれ用意している。会員数は2022年6月に250万人を突破した。
Audible
Audible(オーディブル)は、Amazonが運営する世界最大級のオーディオブックサービスである。プロのナレーターや声優、俳優を起用しており、聴きやすい朗読サービスを提供している。最新ビジネス書から名作文学まで提供ジャンルが幅広い。月額1,500円で会員になると、国内・海外合わせて約12万冊以上のタイトル聴き放題、再生速度調整、ダウンロード機能によるオフライン再生、ポッドキャスト聴き放題、Audibleオリジナル作品などの特典を楽しむことができる。
音声アプリの今後
音声アプリはここ2、3年で急速に成長してきたメディアであり、今後もさらなる成長が見込まれる。近年のSNSやコンテンツと言えばYouTube、Instagram、Twitter、TikTokと目を使うものばかりだったが、その一角に耳を使う音声アプリが今後入ってこようとしている。
耳を使う音声アプリは我々の生活時間の多くに使えるようになる余地が残されている。これが音声アプリの成長余地を端的に示している。
(出典:ボイステック革命)
また、ポッドキャストの聴取シチュエーションを見ると、「〜中」に聴いている、まさに「ながら聴き」をしている場合がすごく多い。さらにその中身を見てみると、上の図で示した耳の可処分時間の通勤、食事、入浴などの該当項目も多く見られる。
(ソース:PODCAST REPORT IN JAPAN ポッドキャスト国内利用実態調査2021)
さらに、音声コンテンツはZ世代でもよく聞かれている。
今はまだどの音声アプリも月間アクティブユーザー数=MAUが500万人以下だが、今後「ながら聴き」活用の発見、デバイスの普及が進むと、MAUが500万人を越えて1,000万人、そして1,000万人を越えても成長していく可能性もある。
あとこの成長を後押しする1つに、音声広告市場がある。音声広告は既存のTVや動画広告に比べてユーザー視点で優位なことが様々なデータで示されている。
・Adobeの調査では、消費者の39%が音声広告は「他のチャネルの広告より興味を引く」、また消費者の38%が音声広告は「テレビ、印刷物、オンライン、SNSより押し付けがましくない」と回答した
・英BBCの調査では、94%のリスナーが何かをしながらポッドキャストを聴いており、この「ながら聴き」はブランドへのエンゲージメントを高めるという結果が出ている
・米MIDROLLがNielsenを通じて行った調査では、ポッドキャスト広告はディスプレイ広告と比べてブランド認知が4.4倍高くなるというデータが出た
・Spotifyが調査会社ニールセンと共同で実施した「ニールセンニューロ調査」において、脳波計測による実験で、動画広告に対する音声広告の優位性が示唆された。「ブランドの名称を認知してもらう」ことを目的とした場合、「音声のみ」の広告素材の方が、「動画のみ」や「動画+音声」の素材よりも高い効果を発揮した
いかがだっただろうか。
アプリ、ユーザー、広告含めて市場全体の成長が期待できる音声アプリ。
これからの動向に注目したい。
ではまた!